前回は、新しいライフスタイルを提案したくても、それを伝える完成写真がまだないという設計事務所の悩みを紹介しました。
そこで次に取り組んだのが、設計士の手描きスケッチを生成AIで住宅パースにする検証です。
今回、机の上に置かれたのは、一枚のシンプルなスケッチでした。
完成された図面ではありません。
空間の構成や視線、建物の雰囲気を検討するために、設計士が描いたものです。
このスケッチをAIへ渡すと、何が起こるのでしょうか。
最初の検証に選んだのは、設計士の手描きスケッチ
手描きスケッチには、設計士の考えが凝縮されています。
窓の位置、天井の高さ、室内と屋外のつながり、視線の抜け方。
しかし、その意図をお施主様に伝えるには、スケッチを読み取る力が必要です。
設計者には見えている空間でも、お施主様には完成後の姿まで想像しにくいことがあります。
そこで今回は、手描きスケッチを基準画像として生成AIへ読み込ませ、実写調の住宅パースへ変換しました。
AIに渡した瞬間、線で描かれた空間が立ち上がった
生成された画像には、スケッチに描かれていた空間の構成が残っていました。
線だけだった壁や開口部に素材感が加わり、室内へ光が入り、家具や植栽が配置されています。
設計者の頭の中にあった空間が、短時間で一枚の住宅パースとして目の前に現れました。
画面を見た瞬間、設計事務所の皆様が画像へ視線を向けたことを覚えています。
AIに詳しいかどうかに関係なく、手描きの線が実写に近い空間へ変わる様子は、直感的に分かりやすいものです。
生成に必要な時間は、使用するAIや処理状況によって変わります。
しかし、従来のように一から3Dモデルを作成し、素材や照明を設定する方法と比べると、初期提案のイメージを非常に短時間で確認できます。
美しい画像が出ても、設計どおりとは限らない
最初に生成された画像は、美しく見えました。
一方で、建築の視点から確認すると、いくつか注意すべき点も見えてきます。
手描きスケッチの線には、AIにとって意味が曖昧な部分があります。
そのため、AIが独自に解釈し、次のような変更を加えることがあります。
開口部の位置や大きさが変わる
天井や壁の形状が変わる
家具の配置や大きさが変わる
指示していない素材や照明が追加される
空間を美しく見せるための要素が自動的に補われる
AIは、線の一本一本を設計図として正確に読み取っているわけではありません。
与えられた画像から、それらしい空間を推測して描いています。
そのため、実写のように美しい画像ができたとしても、設計内容が正しいとは限りません。
ここは、建築の知識を持つ人が必ず確認すべき部分です。
スケッチを完成図ではなく、対話の入口にする
今回の検証で強く感じたのは、手描きスケッチから作成したAIパースを「完成予想図」として扱う必要はないということです。
むしろ、設計者とお施主様が空間について話し合うための、対話の入口として活用できます。
例えば、生成された画像を見ながら、次のような話ができます。
窓は、もう少し大きい方がよいか
室内から庭がどのように見えると心地よいか
木の使用範囲は、この程度でよいか
家具を置いたときに、空間が狭く感じないか
明るく開放的な方向と、落ち着いた方向のどちらが好みか
スケッチだけでは伝わりにくかった内容も、画像になると具体的な言葉が出やすくなります。
AIパースの価値は、きれいな画像を作ることだけではありません。
まだ固まっていない設計を、見える状態にして話し合えることにあります。
AIに任せた部分と、人が判断した部分
今回の実践では、AIと設計者の役割を分けて考える必要がありました。
空間の可視化
AIは、スケッチを実写調の画像へ変換できます。
一方、設計者は、窓、壁、天井、空間構成などに設計意図が反映されているかを確認します。
素材の表現
AIは、木、塗り壁、ガラス、タイルなどの素材を描き分けます。
設計者は、その表現が実際に採用する素材と合っているかを判断します。
家具や植栽の配置
AIは、空間に合うと考えた家具や植栽を自動的に追加できます。
しかし、大きさ、位置、動線が現実的かどうかは、人が確認しなければなりません。
光や空間の雰囲気
AIは、自然光や陰影を加えて、印象的な空間を描くことができます。
その光が実際の方位や開口部と矛盾していないか、提案したい暮らしや建築の品格に合っているかは、設計者が判断します。
デザインの方向性
AIは、異なる素材や雰囲気の案を短時間で作成できます。
その中から、どの方向を採用し、どこを修正するかを決めるのは人です。
AIが描いた画像を、そのまま正解とするわけではありません。
設計者が画像を見て、残す部分と直す部分を判断する。
この往復によって、AIパースは実務で使える提案資料に近づいていきます。
画像で方向性を共有し、本物の素材で確かめる
AIパースで空間の方向性を共有した後は、実際の素材サンプルとの照合も重要です。
AIが描く木目、タイル、壁材、ファブリックは、あくまで画像上の表現です。
実物には、手触り、光沢、凹凸、色の揺らぎがあります。
そのため、次のような流れが現実的です。
AIパースで空間全体の方向性を共有する
素材サンプルで実際の色や質感を確認する
必要に応じて画像を修正する
デジタルの分かりやすさと、実物の確かさ。
どちらか一方ではなく、両方を組み合わせることで、住宅提案の説得力を高められます。
今回の実践で分かったこと
今回の手描きスケッチからのAIパース生成では、次のことが分かりました。
シンプルなスケッチでも、空間の方向性を短時間で可視化できる
お施主様との打ち合わせで、具体的な会話を始めやすくなる
AIは曖昧な線を独自に解釈するため、設計どおりになるとは限らない
美しさと正確さは、分けて確認する必要がある
建築を理解する人が、生成結果を判断することが重要
AIパースは完成図ではなく、設計を深める検討用イメージとして役立つ
手描きスケッチは、AIに置き換えられるものではありません。
設計者の発想や思考が最初にあり、その内容をお施主様へ伝わりやすくするためにAIを使う。
この順序を守ることが、建築AIを実務で活用するうえで大切だと感じています。
次に見えてきたのは、AIパース特有の「ギラつき」
手描きスケッチから住宅パースを作れることは確認できました。
しかし、次の課題も現れます。
AIが作る画像は、明るく華やかに見せようとするあまり、素材が不自然に光ったり、空間が安っぽく見えたりすることがあります。
設計事務所が大切にしている、静けさや素材感、建築としての品格をAIへどう伝えるのか。
次回は、AIパースに現れた「安っぽいギラつき」を抑えるために行った調整を紹介します。
【建築AI・伴走記 #3】AIパースの「安っぽいギラつき」を消す|高級住宅の品格を整える実践
手描きスケッチからAIパースを作る具体的な方法
この記事では、設計事務所との実践で起きた変化と課題を中心に紹介しました。
手描きスケッチの準備、画角を維持する場合とAIへ任せる場合の違い、基本プロンプトなど、具体的な作成手順は次の記事でまとめています。
手書きスケッチをAIで住宅パースにする方法|Emotion Sketch™でお施主様の想いを形にする
生成AIを工務店や設計事務所の提案業務へ取り入れたい方には、それぞれの業務や現在使用している資料に合わせた研修・個別相談にも対応しています。
AIの操作だけを覚えるのではなく、設計意図を守りながら、住宅提案に活用できる形を一緒に考えます。