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提案画像の整備

【建築AI・伴走記 #1】設計事務所のAI活用|「目に見える実績」がまだないという焦り

更新日 2026年10月18日

「提案したい暮らしは見えている。でも、それをお客様に見せる写真が、まだない」

ある設計事務所とのAI活用は、そんな率直な悩みから始まりました。

この設計事務所には、これまでに手がけてきた住宅と、長年培ってきた設計技術があります。「目に見える実績がない」というのは、会社として施工実績がないという意味ではありません。

これから新しく提案したいライフスタイルや空間について、完成写真や施工事例がまだ存在しないという意味です。

建てたことのない空間には、当然ながら完成写真がありません。しかし、完成写真がなければ、お施主様はその魅力を具体的に想像しにくくなります。

この矛盾をどう乗り越えるか。

それが、設計事務所と私・山本が取り組み始めた、建築AI・伴走記の最初のテーマです。


豊富な設計実績があっても、新しい提案には写真がない

設計事務所は、これまで数多くの住宅を手がけ、独自の美意識と設計手法を積み重ねてきました。

一方、住宅に求められる価値は、少しずつ変化しています。

間取り、性能、素材を説明するだけでなく、その住宅で家族がどのような時間を過ごせるのか。日常から少し離れて心を整える場所、家族や仲間と過ごす場所、自分の趣味に没頭できる場所など、暮らしの場面まで伝えることが求められています。

設計事務所にも、これから提案したい空間の方向性がありました。

しかし、新しい提案だからこそ、それを象徴する施工写真がまだありません。

  • 言葉だけでは空間の雰囲気まで伝わりにくい

  • 参考写真だけでは自社の提案として見せにくい

  • 従来のCGパースでは制作に時間がかかる

  • まだ設計条件が固まっていない段階で、詳細な3Dモデルを作るのは負担が大きい

  • 美しく見せることを優先すると、設計事務所らしい品格を失う可能性がある

「何か新しいことを始めたい。しかし、最初の一件を受注するために見せるものがない」

これは、新しい住宅商品やブランドを立ち上げる工務店・設計事務所が直面しやすい課題です。


最初から「AIを導入しましょう」とは考えなかった

私は、この設計事務所へ、最初からAIツールの導入を提案したわけではありません。

先に確認したのは、現在の打合せ方法と、これからお施主様へ伝えたい価値でした。

  • どのような住宅を提案してきたのか

  • どのような素材を大切にしているのか

  • お施主様とは、どのような言葉で会話しているのか

  • これから、どのような暮らしを提案したいのか

  • 現在の提案資料では、何が伝わりにくいのか

  • スタッフが無理なく続けられる方法は何か

AIは目的ではありません。

必要なのは、新しいライフスタイル提案を、お施主様が理解できる形にすることです。その方法を考えた結果、生成AIによるビジュアル検討が選択肢に入りました。


外から正解を渡すのではなく、同じ机で悩む

外部のコンサルタントであれば、導入するAIツール、プロンプト、運用マニュアルをまとめ、「この手順で進めてください」と渡すこともできます。

しかし、それだけでは現場へ定着しません。

設計事務所には、それぞれ異なる美意識、設計方法、接客の流れがあります。一般的に評価されるきれいな画像でも、その会社らしい建築に見えなければ、実務では使えません。

私は、設計事務所の打合せに入り、実際の資料、素材、会話、スタッフの反応を見ながら、一緒に方法を探すことにしました。

きれいな成功事例だけを見せるのではなく、うまくいかなかった画像も並べます。

「これは自分たちの建築には見えない」

「光が派手すぎる」

「素材が安っぽく見える」

「建築よりも家具や植栽が目立っている」

「画像としては美しいが、このままではお客様に誤解を与える」

こうした違和感を一つずつ言葉にすることが、最初の仕事でした。

AIの操作方法を覚える前に、「自分たちは何を美しいと判断し、何を不自然だと感じるのか」を共有する必要があったからです。


AIで描く画像と、本物の素材を組み合わせる仮説

検討の中で見えてきたのが、AIによるビジュアルと、設計事務所が扱う本物の素材を組み合わせる方法です。

AIは、まだ建っていない空間の雰囲気を可視化することが得意です。

例えば、次のような方向性を、初期段階から比較できます。

  • 光が入る時間帯

  • 木、石、タイル、塗り壁の組み合わせ

  • 家具を配置した空間のスケール

  • 中庭やテラスで過ごす場面

  • 昼景、夕景、夜景による印象の違い

  • 家族、友人、ペットと過ごす時間

一方、AI画像だけでは、素材の重さ、冷たさ、温かさ、細かな凹凸、経年変化までは伝えられません。

そこで、AIが描いた空間を画面で見せながら、その空間に使いたい天然木、石、タイルなどの実物サンプルへ触れてもらう方法を考えました。

画面の中では、空間全体の方向性を確認する。

手元では、本物の素材を見て触れる。

AI画像と実物素材は、どちらか一方で完結させるのではなく、それぞれの得意な役割を組み合わせます。

これが、この伴走で検証を始めた最初の仮説です。


AIの導入より難しいのは、社内の納得をつくること

新しい方法を始めるとき、スタッフ全員が最初から同じ期待を持つわけではありません。

  • 本当に実務で使えるのか

  • 自社の建築が安っぽくならないか

  • 操作を覚える仕事が増えるのではないか

  • AI画像を見せて、お施主様が誤解しないか

  • これまで培った設計技術が軽く見られないか

こうした不安は、AIに反対しているから生まれるのではありません。

設計とお施主様への説明に責任を持っているからこそ、簡単には受け入れられないのです。

そのため、最初から大きな成果や全社導入を目指しませんでした。

まずは一つのスケッチ、一つの空間、一つの提案で試します。

  • どの資料をAIへ渡したか

  • 何が正しく表現されたか

  • 何が変わってしまったか

  • 設計事務所らしさが残っているか

  • お施主様へ何を説明する必要があるか

  • 従来の方法より、本当に負担が減るか

小さな検証を繰り返し、「これなら使える」と感じられる体験を社内に増やしていくことにしました。


最初の段階で決めた、AIへ任せないこと

AIを使い始めると、できることを増やしたくなります。

しかし、実務へ導入するには、何をAIへ任せないかを先に決める必要があります。

この伴走では、AI画像を次のように位置づけました。

  • 新しい空間の方向性を検討するための画像

  • お施主様との会話を始めるための画像

  • 素材や光、家具、暮らし方を比較するための画像

  • 確定前の考えを共有するための画像

一方、次の内容はAI画像だけで判断しません。

  • 正確な寸法

  • 法規

  • 構造

  • 断熱・耐震性能

  • 建材や設備の正式な仕様

  • 施工可能性

  • 見積金額

  • 最終的な設計と契約内容

生成された画像がどれほど実写のように見えても、正式な図面や仕様書の代わりにはなりません。

この境界を設計事務所と共有しておくことが、安心して検証を続けるための前提になりました。


最初に目指したのは、作品ではなく「対話の入口」

この時点では、AIを使った新しい提案方法は完成していません。

スタッフ全員が使いこなし、受注実績が積み上がったという成功談でもありません。

まだ存在しない空間を、どうすれば自社らしく見せられるのか。

AIが作った画像を、どこまで信頼してよいのか。

自社の美意識を、どのような言葉や画像でAIへ伝えるのか。

お施主様へ、検討用画像であることをどう説明するのか。

それらを一つずつ確認している段階です。

ただ、最初の検証によって一つの方向性が見えました。

AI画像は、完成した答えとして提示するものではありません。

設計士とお施主様が同じ画面を見ながら、「この光が好き」「この素材は違う」「ここで家族と過ごしたい」と会話するための入口として使えます。

その会話を、実際の設計へ落とし込むのは人です。

AIが設計事務所の審美眼を代替するのではなく、まだ言葉になっていない考えを可視化し、対話を助ける。その役割であれば、これまでの設計技術と無理なく共存できます。


伴走記#1で見えたこと

最初の検証で見えてきたことを整理します。

  • 新しい提案には、完成写真が存在しないという壁がある

  • AIは、まだ建っていない空間の方向性を見せる手段になる

  • 美しい画像を作るだけでは、その会社らしい提案にはならない

  • 設計事務所の違和感や美意識を言葉にする工程が必要

  • AI画像と本物の素材を組み合わせることで、提案を補完できる

  • 全社導入より先に、小さな検証と納得を積み重ねる

  • AI画像と正式な設計資料の役割を分ける

  • 最初の成果は、画像の完成度より、対話が始まること

この段階では、まだ手探りです。

だからこそ、この連載では、完成後の成功事例だけでなく、途中で起きた迷い、失敗、修正も記録していきます。


次回|手描きスケッチがAIパースへ変わった瞬間

次の検証では、設計士が描いた手描きスケッチをAIへ読み込ませました。

わずかな線で描かれた空間を、AIはどこまで理解できるのか。

スケッチの構図を守れるのか。

素材、光、家具を加えても、設計意図は残るのか。

そして、生成された画像を見た設計事務所のスタッフは、どのような反応を示したのか。

次回は、手描きスケッチからAIパースを作成した実際の検証と、そこで見つかった可能性と課題を紹介します。

【建築AI・伴走記 #2】手書きスケッチが数秒で住宅パースに変わる|設計事務所とのAI実践

建築AIの全体像を先に確認したい方はこちらをご覧ください。

建築AI事典|工務店・住宅会社のAI活用方法

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